戸隠神社をどう巡るか

神世の時代「天の岩戸(あまのいわと)」が飛んで来て誕生したという戸隠山。戸隠神社はその戸隠山を中心に開かれました。そして「天の岩戸開きの神事」に功績のあった神々が祀られています。

戸隠神社の五社はそれぞれ県道36号沿いにあるので車で移動しやすいのですが、歩いて回ることもできます。巡る順番としては、宝光社からスタートし、火之御子社、中社を経て、戸隠山を御神体とし、歴史としても古い奥社をゴールとするのがおすすめともいいますが……

実は戸隠神社のHPによれば、五社巡りの順番はとくに決まってはおらず、宿泊場所や参拝時間に合わせてお好きな順番で御参拝くださいとのことです。ちなみに宝光社から奥社まで全体的にゆるやかな上り坂になっていて距離は約6kmとのことです。

今回、上の写真、中社近くの宿坊・高山坊さんに2泊し、五社を歩いて回りました。順番は到着後にまず中社に参り、翌日いちばん下った場所にある宝光社、続いて火之御子社を巡り、坂を上って中社を通り抜けて遊歩道を歩いて奥社へ。奥社へは入り口から真っすぐな参道を随神門を通って上がっていきます。並び立つ九頭龍社と奥社に詣でた後、木立のなかの自然道を歩いて鏡池と小鳥ヶ池を散策して宿に戻りました。途中、鏡池で絶景に立ち会うこともできました。

最初に詣でた中社

戸隠に到着した後、最初に詣でたのが中社。「ちゅうしゃ」と読みます。鳥居をくぐってまっすぐな石段を上ります。こちらは男坂で、左手の方にゆるやかな石段の女坂もあります。拝殿でお参りした後おそるおそる境内を散策。そこには樹齢700年を超えるご神木(下の写真)、樹齢800年を超える三本杉があり、社殿や宝物館(青龍殿)、そして戸隠神社の社務所が置かれています。裏には「さざれ滝」と呼ばれる小さな滝もありました。

本殿は昭和17年(1942年)に火災に遭い、昭和30年(1955年)に再建されたといい、本殿と拝殿が一体となった独特の形をしているそうです。

ところで中社の御祭神は「天八意思兼命(あめのやごころおもいかねのみこと)」といいます。「古事記」では思金神、常世思金神(とこよのおもいかねのかみ)、「日本書紀」では思兼神(おもいかねのかみ)と記されている神さまで、どんな神さまが調べてみますと……

その「天八意思兼命」は素戔嗚尊(すさのおのみこと)の乱暴狼藉を嘆き天照大神が天岩戸に隠れた時、岩戸神楽(太々神楽)を考え出して岩戸を開くきっかけを作られた神さまで、学業成就・商売繁盛・開運・厄除・家内安全に御利益があるといいます。

中社へ車で訪ねる場合、奥社の方向にわずかに上った場所に無料の駐車場があります。

中社

住所:長野県長野市戸隠中社

電話:026-254-2001(戸隠神社社務所)

HP:https://www.togakushi-jinja.jp/

山あいの「神道」を通って宝光社へ

翌朝、早朝に宿坊を発ち、ゆったりとした坂道を下って宝光社(ほうこうしゃ)に向かいました。県道36号線沿いを歩いても行けますが、ここは旧道を歩いて向かいましょう。爽やかな天候です。実は歩き終えてから、こうした旧道や木立のなかを散策するように歩くのが五社巡りの楽しさだと思いました。

この山あいの道は「神道(かんみち)」と呼ばれているそうです。周囲は昔ながらの戸隠の民家がありお墓や畑を抜けて、木立のなかの小さな道になってゆきます。

なにも飾らない古くからの「神道」。周囲の自然に目を向けることで気持ちが落ち着き、心が洗われてゆくような気がするのです。

中社から1.5kmほど、30分ほどゆったりとした下り坂を歩いてゆくと宝光社に着きます。ちなみにこの道の途中を曲がると火之御子社がありますが、それは後ほど。

まずは宝光社の正門から入るために鳥居まで下りてみました。杉の古木のなか、社殿まで石段が270余段あるそうで、上の写真の急な男坂と、ゆるやかな女坂があります。境内まで上ると鬱蒼とした森に囲まれてりっぱな社殿がありました。

ちなみに長野市から車で向かうと最初に出会うのが宝光社で、無料の駐車場もあります。

上の写真が宝光社の社殿です。御祭神は「天表春命(あめのうわはるのみこと)」。中社祭神の「天八意思兼命」の御子神、つまり子どもで、開拓・学問技芸・裁縫の神、安産の神、女性や子供の守り神として御利益があるそうです。

ちなみに次に訪ねる火之御子社(ひのみこしゃ)には御朱印の授与所がありません。希望される方は宝光社か中社の授与所で戴いてください。また御朱印は参拝後に戴くようお願いします。

宝光社

住所:長野県長野市戸隠宝光社

電話:026-254-2012 

HP:https://www.togakushi-jinja.jp/

宝光社から火之御子社へ

「神道」を戻れば火之御子社(ひのみこしゃ)に着きますが、今度は県道36号線を歩いて上ってみました。火之御子社は全体にこじんまりとしています。

承徳2年(1098年)頃の創建といいます。宝光社、中社、奥社はいずれも平安時代から明治維新まで神仏習合でしたが、火之御子社は創建当初からずっと神社だったといいます。

「天の岩戸伝説」で岩屋に隠れてしまった天照大神(あまてらすおおみかみ)を誘い出す舞を踊った女神「天鈿女命(あめのうずめのみこと)」が火之御子社の御祭神です。舞楽芸能の神、縁結びの神、火防の神として尊崇されています。

社殿の左手奥には樹齢500年を超える「夫婦の杉(二本杉)」、そして社殿の右手奥には「西行桜」(オオヤマザクラ)がありました。ちなみに駐車場は正面の鳥居わきに3台分です。

火之御子社

住所:長野県長野市戸隠2412

電話:026-254-2001(戸隠神社社務所)

HP:https://www.togakushi-jinja.jp/

そして奥社、九頭龍社へ向かう

そして奥社(おくしゃ)、九頭龍社(くずりゅうしゃ)へ向かいます。

ふたたび「神道」を歩いて中社まで戻り、中社からは自然が残る木立のなかの一本道を歩いていきます。途中で木立の間から戸隠の山なみが見えました。眺めるぶんは美しい稜線ですが、修験者たちがきびしい修行をした急峻な岩峰でもあります。

途中で、上の写真、木立のなかに苔むした石碑が越後道越水ヶ原の分岐点に立っていました。「女人結界の碑」といいます。高さ190cmほどある石碑で、寛政7年(1795年)に建てられたもの。「右奥院・中院両道女人結界、左中院江之女人道」という文字が刻まれています。明治に入るまで女性が奥院道・中院道へ立ち入るのは禁じられていたのです。

ところがこの禁を破り、奥へ進もうとした尼僧がここで石になったという悲しい言い伝えも残されていました。それが「比丘尼石(びくにいし)」。歴史を感じさせる石碑や石が道の傍らにいまも残されています。

中社から奥社参道の入り口までは約2kmで徒歩30分から45分ほどでしょう。車なら5分ほどで参道入り口に到着します。ここには無料の駐車場もあります。

ちなみに奥社の参道入り口にはおいしいお蕎麦屋さん「奥社前なおすけ」があり、昼食をいただきました。

参道は風情ある杉の古木が立ち並ぶ一本道で、真っすぐ戸隠山に向かって伸びています。そして、その途中にあるのが、ひときわ目立つ随神門(ずいしんもん)。戸隠神社でもっとも古い建造物といい、宝永七年(1710年)の建立。三間一戸の入母屋造り、正面の柱は四本ですが裏側に八本の控柱があるという八脚門で、屋根は風情ある茅葺きになっています。

左右に随身像を備えた随神門は邪気や邪悪なものを防ぐ門です。もともと神仏習合の時代には仁王門と呼ばれ、仁王像が祀られていたそうです。一方、随神像とは神社において神さまを守る像で、向かって左側は豊磐間戸命(とよいわまどのみこと)右側は櫛磐間戸命(くしいわまどのみこと)というのだそうです。

参道入り口から奥社までは片道およそ2.0km。両脇には大きな杉木立が並び、特別な場所であることがわかります。そして随神門はその中間。最後の500mほどは上りの石段となっているので、頑張って歩きましょう。

石段を上りきると向かって左手に九頭龍社がありました。小さな祠です。御祭神は「九頭龍大神(くずりゅうのおおかみ)」。古くから地主の神として戸隠信仰の中心的な存在でした。

戸隠を源流とする鳥居川、楠川、裾花川さらには地下水脈を通じて越後まで水を司る神として農業に従事する人びとの信仰を集めてきたといいます。そのため水の神、雨乞いの神、そして虫歯の神、縁結びの神として尊信されているのですが、虫歯の神というのが面白いですね。

そして右手奥に鎮座するのが奥社です。御祭神は「天手力雄命(あめのたぢからおのみこと)」といい、「天の岩戸伝説」で、岩屋に隠れた天照大神が外の様子が気になって、岩戸を少し開けたときに岩戸を引き開け、天照大神の手を取って岩屋から引っ張り出したのが、天手力雄命といいます。

そのため開運、心願成就、五穀豊穣にあらたかな功験があるといわれ、岩戸を動かせるほどの力持ちだったことから、スポーツ必勝にも御利益があるそうです。

ふと上を見上げるとすぐむこうに戸隠山の急峻な岩峰が見えました。後でわかったのですが、ここが戸隠山の登山口でもあるそうで、かつて修業した人びとも奥社でお参りをして戸隠に登って行ったのでしょうね。

奥社と九頭龍社

住所:長野県長野市戸隠3690

電話:026ー254ー2001(戸隠神社社務所)

HP:https://www.togakushi-jinja.jp/

ぜひ訪ねたい遊歩道 戸隠を湖面に映し出す鏡池

随神門から西の森に遊歩道が延びていました。なだらかで歩きやすい道になっていて、森を散策することができます。この森にある鏡池も必見でした。

随神門から歩くこと15分ほどだったでしょうか、木立が急に消えたかと思うと、広々とした湖岸に出たのです。その時には気が付きませんでしたが、後ろを振り返ると上のような絶景が待ち受けていました。戸隠の美しい山並みが静かな湖面に映し出されていたのです。

「鏡池」と名付けられているそうです。その名の通り絵画のような絶景。五社を巡って、ごほうびを頂いたような気分です。この鏡池には車で行くこともでき駐車場も整備されていました。そしてもうひとつ、下の写真の「小鳥ヶ池」と名付けられた池も10分ほどの場所にあり、散策のコースになっています。

ちなみに、この森には5月になると群生する水芭蕉の花が咲き乱れる「水芭蕉のこみち」や、春のサンカヨウや晩夏から初秋にはアサギマダラが見られる「戸隠森林植物園」もあり、季節季節の自然を身近に感じとれるということですので、五社巡りとあわせてぜひ散策してみてください。

中社近くの宿坊・高山坊で憩う

今回宿泊したのは、ちょうど中間にある中社に近い宿坊の「高山坊」さんです。場所は中社から徒歩3分ほどで、県道36号線からちょっと脇道に入った場所にあります。

創業160年といい古くからの宿坊として、大勢の参詣客が訪れたことでしょう。古くは「花寧坊摂善院」といい、旧中院の宗徒で戸隠に詣でる「戸隠講」の方々の講社聚長として神々とのパイプ役を務めきたそうです。神事の際には、太々神楽の雅楽で龍笛をつとめ、宿泊者に伝統の音色を披露することもあるといいます。

お風呂は温泉ではありませんが、この時は夫婦貸し切りで使うことができました。さらっとしてとても気持ちのいいお湯で、遠赤外線を発するブラックシリカが入っているせいでしょうか、体が温まります。そして肌がすべすべになる印象でした。

食事は精進料理というほどではありませんが、2泊とも野菜やキノコに蕎麦など地元の食材を使ったヘルシーな料理で、とくに初日は豆乳鍋もあって満腹、おいしくいただきました。

体の内側から、そして体の外側からす-っときれいになってゆくような戸隠の旅。とてもリフレッシュできました。次回は、奥社から戸隠山へ登ってみたいものです。

高山坊

住所:長野県長野市戸隠3363―イ

電話:026-254-2332

HP:https://takayamabou.com 

[All Photos by Masato Abe]

 


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