バリ島には「アラック (Arak)」という地酒があります。
度数高めの蒸留酒で、原料はココナッツや米、サトウキビ。
バリヒンズー教の祈祷儀式の捧げものとして大切にされています。
また、島民たちの楽しみとしても広く親しまれています。




地酒というだけあって、アラックには作る酒蔵ごとに味わいも品質も様々。
その年の天候や原材料の出来にも左右されます。
中には粗悪品があり、人命に関わる事態がニュースになることもあります。
品質が良くて美味しいアラックとの出会いは、バリ島ローカルにとっても貴重な機会のようです。




とはいえ、バリ島のどこでも造られているというわけではなく、原料の生産地であることが条件だそうです。
最もポピュラーな原料はココナッツです。
ココナッツはバリ島のあちこちで見かけますが、ココナッツにも様々な品種があり、アラック造りに適した品種が育つのはバリ島の中でも数えるほどの地域だけ。
そんなわけで、近年になって、政府に登録した酒蔵の製品のみ一般流通可能とする法律ができました。
スーパーマーケットや酒店、土産物店で販売されているアラックは、登録された酒蔵の製品です。
その登録にはそれなりの手続きや費用がかかるため、近代的な設備での大量生産が基本です。




一方で、民間では伝統的な製法で自家製アラックを製造している家がまだまだあるとの情報を得てリサーチしたところ、アラック生産地のひとつ・カランガッサム県出身のローカルに懇願して連れて行ってもらいました。

クタやサヌールといった外国人に人気のエリアから自動車で行くこと約2時間、カランガッサム県へ。
さらにそこから山深く進みます。
カランガッサム県の山奥は、バリ島内でも数少ない、美味しい湧き水が飲めるエリアです。
道路はどんどん狭くなり、民家もほとんど見かけなくなって、車窓からの景色は緑の濃いジャングルに。
案内人たち(親族数人が連れ立って現地を案内してくれた)が道端で民家を見つると、その度に戸を叩いて道を尋ねて、さらに山奥へ。
自動車1台がやっと通れる程度の、太めの獣道といった道路を進んでいきます。
そうして辿り着いた先に、ありました!小さな民家の自家製酒蔵が!
ジャングルに囲まれた民家の裏庭の、恐ろしく素朴な蒸留設備を見学し、いざ試飲。
竹を割った樋から滴る出来立てのアラックを両掌で受けて口で吸うと、それは、まぎれもなく上質な、未知の美味しさでした。




バリ島はローカル色の強く残る島ですが、島の中でも地域ごとの結束が固く、よその村の者は別の村にはなかなか入り込めません。
ドライバーはタバナン県という別の県の人だったのですが、この旅の後で「カランガッサムの彼がいなければ、自分だけではあのような酒蔵巡りは不可能だった」と話していました。
もちろんドライバーの彼もこの貴重な機会を享受して、何本ものアラックを購入。
「次の儀式に持って行くと地元の者たちが喜ぶ」と、嬉しそうでした。

近年、バリ島でも山村の若者は進学や就業で都市部へと移って過疎化が進み、こうした酒蔵も年々減少しているのだそうです。
また機会あれば、“冒険”といっても過言ではない酒蔵巡りをしてみたいものです。


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