<W解説>韓国・李政権の誕生で、南北関係は改善に向かうのか=新大統領がまず着手したのは?
<W解説>韓国・李政権の誕生で、南北関係は改善に向かうのか=新大統領がまず着手したのは?
韓国政府は今月11日、南北の軍事境界線付近で実施してきた北朝鮮向けの軍事宣伝放送を停止した。一方、北朝鮮が同付近で韓国に向けて行ってきた「騒音放送」も、同日夜を最後に確認されていない。韓国側の宣伝放送停止の措置に反応したとの見方が出ている。韓国のユン・ソギョル(尹錫悦)前政権は北朝鮮に強硬な姿勢で臨んだが、今月4日に就任したイ・ジェミョン(李在明)大統領は南北の信頼回復と朝鮮半島の平和定着を公約に掲げている。宣伝放送の停止も李氏の指示によるものだ。冷え込んでいる南北関係が、韓国での新政権誕生を機に改善に向かうのか注目される。

韓国軍は昨年6月、北朝鮮が韓国に向けて汚物などをぶら下げた風船を飛ばしていることへの対抗措置として、6年ぶりに南北軍事境界線付近で拡声器による宣伝放送を再開した。韓国軍による北朝鮮向けの宣伝放送は1962年に始まり、その後、南北関係の改善や悪化に伴って中断、再開を繰り返してきた。放送は大スピーカーを使って行い、内容は、韓国の民主主義制度が北朝鮮の政治制度よりも優れていることへのアピールや、北朝鮮の体制批判、韓国や海外のニュース、韓国の歌などだ。放送は北朝鮮軍の兵士に与える心理的影響が大きいとされる。

これに先立ち、当時の尹政権は南北軍事合意の効力を全面的に停止した。「9.19南北軍事合意」と呼ばれるこの合意は、2018年9月、当時のムン・ジェイン(文在寅)大統領と北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)総書記が署名した「平壌共同宣言」の付属合意書だ。南北が軍事的緊張緩和のために努力することを申し合わせる内容で、南北は地上、海上、空中で一切の敵対行為をやめ、非武装地帯(DMZ)を平和地帯に変えるための対策を講じることとした。軍事合意をめぐっては、北朝鮮が一昨年11月に軍事偵察衛星を打ち上げたことを受け、韓国は合意の効力の一部を停止したが、全面的に停止するのはこの時が初めてで、当時の韓国大統領府は、効力停止により、「北朝鮮の挑発に対する十分かつ即応的な措置が可能になる」と強調した。南北軍事境界線付近での宣伝放送も同合意の効力停止を受けたもので、放送再開初日には愛国歌(韓国の国歌)を流し、「北朝鮮の同胞の皆さん、アンニョンハセヨ(こんにちは)」とのアナウンサーの呼びかけから放送を開始した。韓国のサムスン電子のスマートフォンが世界38カ国で1位の出荷台数を記録していることや、北朝鮮市場でのインフレの傾向などを伝えたほか、放送の途中では韓国の人気グループ「BTS」のヒット曲「Dynamite(ダイナマイト)」などのK-POPも流した。

一方、北朝鮮は、2023年末から南北関係を「敵対的な二つの国家」と位置付け、昨年10月には韓国を「敵対国」と定義する憲法改正を行った。これに沿った措置として、韓国につながる道路と鉄道を爆破。国営、朝鮮中央通信は当時「北朝鮮憲法の規定に基づき取られた、避けられない正当な措置だ」とした。

南北関係は緊張が続いているが、李大統領は就任前の5月、前述の南北軍事合意を回復させるべきとの考えを示した。今月12日には、2000年に開かれた南北首脳会談を記念する式典に祝辞を寄せ、「(北朝鮮との)消耗的な敵対行為を中止し、対話と協力を再開する」と表明。「平和、共存、繁栄する朝鮮半島のため、あらゆる努力を傾ける」と関係改善に改めて意欲を示した。

韓国軍は11日、これまで実施してきた前述の宣伝放送を中止した。李氏が指示した。この措置は、南北の緊張緩和と対話に向けた新政権のメッセージと捉えることができる。放送を6年ぶりに再開するきっかけになった、北朝鮮から韓国への「汚物風船」飛ばし行為が昨年11月以降、行われていないことも考慮したとみられる。また、韓国統一部(部は省に相当)は9日、市民団体に対し、北朝鮮向けのビラ散布の中断を求めており、新政権になって、南北間の緊張緩和に向けた動きが進んでいる。これに対し、北朝鮮が行ってきた前述の「騒音放送」も11日夜を最後に確認されていない。韓国による宣伝放送の中止措置を受けた対応との見方もあるが、韓国軍は今後の動向を注視することにしている。

一方、北朝鮮の国営・朝鮮中央通信と、住民向けの朝鮮労働党機関紙・労働新聞は今月5日、李氏の当選を短く報じた。
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