<W解説>韓国で「先生の権利」脅かされる中、教師が「なりたい職業」として中高生に人気の理由
<W解説>韓国で「先生の権利」脅かされる中、教師が「なりたい職業」として中高生に人気の理由
韓国教育部(部は省に相当)と韓国職業能力研究院が先月27日に発表した調査によると、中高生の「将来なりたい職業」で「教師」が1位となった。「教師」が1位となるのは、この調査が国家承認統計となった2015年以来、11年連続。こうした中、韓国の学校現場では、生徒による教師への暴行事件が多発しているほか、保護者による過度な要求などで心の不調を訴える教師が相次いでいる。そんな中でも中高生には、教師の仕事が魅力的に映っているのだろうか。どうやら教師が人気が高いのは現実的な理由があるようだ。

この調査によると、「教師になりたい」との回答は中学生で7.5%、高校生で7.6%と、いずれも前年比増となった。中学生はこれに、スポーツ選手(5.4%)、医師(3.6%)の順で続き、高校生は看護師(5%)、生命科学者・研究員(3.7%)の順だった。

教師という職業は、韓国では長く尊ばれてきた仕事の一つだ。「先生の日」という日本にはない記念日もある。学校で教えを受けている先生や、かつての恩師を敬い、感謝する日として1964年に始まり、毎年5月15日を「先生の日」として定めている。「5月15日」としているのはハングル創成などの功績を残したことで韓国国民が今も尊敬し続け、師として崇めるセジョン(世宗)大王の生誕日にちなむ。かつては、教師に感謝の気持ちを伝えようとプレゼントを贈るといった習慣があったが、次第にエスカレートして、保護者が教師に対し、高額な贈り物を贈ったり、金品を渡したりするなどの行為が横行。2016年には「不正請託及び金品授受禁止法」が制定され、現在は教師にプレゼントを贈ることは禁じられている。そんな中、生徒らは「教師の日」に歌を披露するなど、純粋に感謝の気持ちを伝えている。

一方、韓国の教育現場では近年、「教権(教師の権利、教育する権利)」が脅かされる状況にもなっている。生徒による教師への暴行事件が相次いでおり、教育部(部は省に相当)の資料によると、この5年間に教師への傷害・暴行事件として認知された事例は1701件に上る。年度別では2020年に106件、21年に231件、22年に374件、23年に488件、24年に502件と年々増加している。今年8月には南東部のキョンサンナムド(慶尚南道)チャンウォン(昌原)の中学校で教師が生徒から押し倒され、全治12週間のけがを負った。保護者による教師への過度な要求も問題になっており、2023年7月には、ソウル市内の小学校で1年生の担任をしていた当時2年目の教師が自殺した。この学校に勤務する教諭たちは、当時、死亡した教師を含め、多くの教職員が保護者から寄せられるクレームへの対応に苦慮していたという。その後に開かれた韓国教員団体総連合会で、当時の教育部長官(教育相)は、「生徒の人権が過度に強調、優先され、教育現場が崩壊している」と危機感をあらわにした。

今年10月、韓国国会教育委員会に所属する、野党「国民の力」のキム・ミンジョン議員が教育部から提供を受けた資料「2021~2025年全国教員任用試験志願者現況」によると、2025年の教員採用試験の志願者数は5万8608人で、2021年の7万97779人に比べ2万1171人減った。6万人を下回ったのは今年が初めてという。志願者数の減少の背景には、前述のような「教権侵害」が社会問題化していることも影響しているとみられている。

こうした中、韓国教育部と韓国職業能力研究院が先月27日に発表した前述の調査結果によると、中高生の「将来なりたい職業」で「教師」が1位となった。「教権侵害」の社会問題化、教員任用試験の志願者減の中で、なぜ中高生に「教師」がなりたい職業として人気なのか。学校で日頃接している教師の仕事に、純粋に魅力を感じるという理由ももちろんあるだろう。加えて、現実的な理由もあるとみられ、教師の仕事は「安定して働ける」「ワーク・ライフ・バランスが取れている」職業と捉えられているようだ。中高生が「安定」「ワーク・ライフ・バランス」についてどれほど理解し、意識しているかは定かではないが、親など周囲の大人たちの教師に対する捉え方も影響しているものとみられる。若者が就職難の韓国において、報酬、待遇が比較的保障され、安定感がある仕事として「教師」が魅力的に映るのもうなずける。報酬面で、韓国の教師は、15年以上のキャリアを重ねると経済協力開発機構(OECD)加盟国の教師よりも高い賃金を受け取っているとの調査結果も出ている。

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