高市早苗首相の台湾有事に関する国会答弁を契機にした日中の対立に、韓国政府は中立の立場を示している。

ことし10月、イ・ジェミョン(李在明)大統領は、同月に首相に就任した高市氏と初めて会談し、日韓関係を安定的に発展させることで一致。日韓両政府は、首脳同士が相互往来する「シャトル外交」の一環として、李氏が来年1月に訪日し、高市氏の地元・奈良で会談する方向で調整に入った。一方、李氏は今月3日に開いた外国人記者を対象にした記者会見で、「中国と韓国は地理的、経済的、歴史的、社会文化的に切っても切り離せない関係にある」と強調。来年の早い時期に中国を訪問して、習近平国家主席と会談したい考えを明らかにした。中韓関係をめぐっては、韓国が2017年に米軍の高高度防衛ミサイル(THAAD)を国内配備した際、中国が強い反発を見せ、以降、関係が冷え込んだ。中国はその後、韓国映画の流入、中国人の旅行制限などの措置を取った。中国による、韓国エンターテインメントに対する事実上の制限「限韓令」は現在も続いている。そんな中、先月、李大統領は11年ぶりに訪韓した中国の習近平国家主席と中韓首脳会談を行った。李氏は習氏と文化交流の拡大についても議論した。これを受け、韓国では「限韓令」が今後、緩和されるとの見方が出ている。韓国政府はこれと相まって、中韓関係の改善に期待を寄せている。それだけに、韓国としてはこうした状況の中で、日中対立に巻き込まれたくないというのが本音だろう。

高市首相は先月の衆議院予算委員会で、台湾有事に関して、武力行使を伴えば、日本が集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」になり得ると答弁した。これに中国側は反発。すぐさま国民に対し、日本への渡航自粛を呼び掛けたほか、日本アニメの公開延期、日本産水産物の輸入の事実上の停止など、相次いで経済的な対抗措置に出ており、今後の日本経済への影響は計り知れない。今月5日、中国商務省は会見で高市氏に対し、「誤った言動を直ちに改め、実際の行動で中国へのコミットメントを示すよう求める」とした。その上で、「もし日本が独断専行する場合、中国は必要な措置を取る」と対抗措置を匂わせた。

日中対立は日中韓3カ国の協力にも影響が広がっている。中国側は先月にマカオで開催予定だった日中韓文化相会合を延期した。また、年内に開催する方向で準備が進められていた日中韓3カ国の首脳会談について、中国側は高市氏の発言を理由に現時点では開催できないとの認識を示した。日中韓首脳会談は、歴史や安全保障などで対立も多い日本、中国、韓国が、共通課題の解決に向けて未来志向で話し合おうと、国際会議に合わせるのではなく、独立した形で2008年から開催。以降、3カ国の持ち回りで定期的に開いてきた。これまで、核・ミサイル開発を進める北朝鮮への対応や、経済協力などを話し合ってきた。2019年12月に中国の四川省・成都で第8回が開かれて以降、日韓関係の悪化や、新型コロナウイルスの感染拡大も影響して見送りが続いてきたが、昨年5月、約4年半ぶりに開かれた。気候変動や防災など6分野での連携を盛り込み採択した共同宣言では、「日中韓首脳会談と閣僚級会合を定期的に開催することで3カ国協力の制度化に努める」ともうたった。今年3月に都内で開かれた3カ国の外相会合では、第10回の早期開催に向けて調整作業を加速することで一致。議長国の日本は調整を進めていた。会談に伴い中国の李強首相の日本訪問が実現すれば、2018年5月以来の中国首相の来日となるはずだった。だが、年内に開かれるとみられていた会談は見送られることが確実となった。

日中対立に、韓国はどのようなスタンスを取ろうとしているのか。李大統領は3日に開いた外国人記者を対象とした記者会見で、急速に悪化している日中関係について触れ、「われわれが一方の肩を持つことは、対立を液化させる要因になる」とし、静観する姿勢を示した。また、李氏は「一方の肩を持つよりは皆が共存できる道を探すようにし、仲裁できる部分があれば役割を果たす」とも述べた。

イ・ヒョク駐日大使も、5日に東京都内の日本記者クラブで開いた会見で日中対立に触れ、「李在明政権は韓日関係も韓中関係も重視している」とし、「日中関係が良くなるような雰囲気をつくることが韓国の役割だ」と述べた。

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