<W解説>長生炭鉱の遺骨、DNA型鑑定実施へ=市民団体の精力的な活動、政府動かす
<W解説>長生炭鉱の遺骨、DNA型鑑定実施へ=市民団体の精力的な活動、政府動かす
今月13日に行われた日韓首脳会談で、高市早苗首相と韓国のイ・ジェミョン(李在明)大統領は、戦時中の水没事故で、朝鮮半島出身者を含む183人が犠牲となった山口県宇部市の長生炭鉱をめぐり、海底で発見された遺骨のDNA型鑑定に向けて日韓が協力を進めることを確認した。これを受け、昨年8月に人骨を回収した地元の市民団体「長生炭鉱の水非常(みずひじょう)を歴史に刻む会」は今月20日、国会内で警察庁など関係省庁の担当者と面会した。同会によると、警察庁の担当者は、DNA型鑑定について実施主体や具体的な日程は日韓間で協議中だとした上で「そう遠くない時期にできると思う」と話したという。これまで、とりわけ日本政府は、遺骨をめぐる対応で消極的な姿勢を見せてきたが、同会による調査の成果や、政府との粘り強い交渉が事態の進展につながった。韓国政府は同会などに褒賞を授与することを検討している。

長生炭鉱は宇部市の東部、瀬戸内海に面した床波海岸にあった海底炭鉱で、1914年(大正3年)に開鉱。最盛期には炭鉱内外で約1000人が働いていた。多くの石炭産出が求められていた太平洋戦争中の1942年2月、本抗口から約1キロメートルの坑道内で異常出水し、坑内で働いていた183人が犠牲になった。同炭鉱の労働者は朝鮮半島出身者が多く、「朝鮮炭鉱」とも呼ばれた。犠牲者のうち7割に及ぶ136人は朝鮮半島出身労働者だ。事故後、遺体が捜索されないままに抗口が閉じられ、犠牲者は海底に取り残された。

当時の報道はわずかで、長く事故について取り上げられることはなかったが、1991年、史実を正しく刻もうと、地元に市民団体「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会(刻む会)」が発足した。団体名に含まれる「水非常」とは、1942年に起きたような炭鉱での水没事故のことをいう。同会はこれまで、追悼碑を建立したほか、同炭鉱の跡として残る排気・排水用の構造物「ピーヤ」の保存、事故を知る人の証言や資料の収集などの活動を行ってきた。また、毎年、事故の日に合わせ、韓国から犠牲者の遺族を招いて、追悼集会を行っている。一方、遺骨を遺族のもとに返そうと、30年ほど前から遺骨の収容を国や県に求めてきたが、交渉は難航した。そのため、同会はクラウドファンディングで資金を集め、遺骨の収容に向け、独自で潜水調査を実施。昨年8月、内部で頭蓋骨と骨3本を発見し、収容した。

同会はその後、身元特定につなげようと、日韓両政府共同による骨のDNA型鑑定の早期実施などを求め、関係省庁と交渉を続けてきた。今月13日に行われた日韓首脳会談で、高市首相と李大統領は、日韓両政府が鑑定を共同で進めることを確認した。会談後の共同記者会見で李氏は「過去の歴史の問題で小さいながらも、意味ある進展を遂げることができ、本当に意義深いと思う」と述べた。

これを受け、同会は20日、国会内で警察庁や外務省の担当者と面会した。同会によると、政府側は「効率よく、確実な方法を日韓で探っている。そう遠くない時期に(DNA型鑑定が)できると思う」と説明したという。同会の井上洋子代表は同日の記者会見で「DNA型鑑定での日韓首脳の合意を聞いた瞬間は本当に涙が出るくらい感動した」と話し、事態が大きく進展したことを喜んだ。

同会では、遺骨の収容や返還にも政府の参加を求めていく方針。また、来月には再び海中での潜水調査と、事故から84年の追悼集会を行う予定だ。

一方、韓国の通信社、聯合ニュースによると、行政安全部(部は省に相当)のユン・ホジュン長官は、16日に行った聯合とのインタビューで、韓国政府から同会などに褒賞を授与する意向があることを明らかにした。聯合は「これまで外交や経済協力などの分野で功労が大きかった外国人に対し政府が褒賞を授与したことはあったが、同団体への授与が決まれば、韓日の過去の歴史と関連がある活動を行ってきた日本の市民団体に褒賞が授与される初のケースとなる」と伝えた。

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