<W解説>北朝鮮が竹島の領有権を主張することはもうない?
<W解説>北朝鮮が竹島の領有権を主張することはもうない?
共同通信は今月1日、「北朝鮮が昨年刊行した自国の領土を示す地図や書籍に、島根県の竹島(韓国、北朝鮮名・独島)を記載していないことが1日、分かった」と報じた。竹島をめぐっては、韓国同様、北朝鮮も「朝鮮固有の島」だとして領有権を主張してきた。共同は「主張を放棄した可能性がある」との専門家の見方を伝えた。こうした変化は、北朝鮮が憲法改正を行って南北統一に関する記述を削除し、朝鮮半島北側を領土とする条項を新設したことと関係がある可能性が指摘されている。

近年、関係悪化が続く韓国と北朝鮮だが、南北融和路線を敷いた韓国のムン・ジェイン(文在寅)政権時代の2018年には、文氏が北朝鮮を訪問した際、北朝鮮の管弦楽団が北朝鮮歌謡の元の歌詞を変えて「独島もわが祖国」と歌った。日本との領土問題に対して南北団結をアピールする演出だった。

同年に韓国で開催されたピョンチャン(平昌)五輪では、開会式で南北の選手団が合同で入場した。この際、竹島が描かれた統一旗を掲げて入場しようとしたが国際オリンピック委員会(IOC)はこれを認めず、選手団は結局、竹島なしの統一旗で入場した。このことに北朝鮮は当時、韓国に対しても不満を向け、朝鮮労働党の機関紙・労働新聞は開幕後に掲載した記事で「言葉だけで独島が我々の土地だと示すのではなく、外部勢力の交渉と圧力に堂々と対抗して行動で独島を守る意志を示すべきだ」と韓国政府に求めた。

南北関係が悪化して以降も、北朝鮮は韓国と足並みをそろえるように竹島の領有権主張を続けた。2021年8月には、「朝鮮の東海(日本名・日本海)海洋圏を固守するための協議会」を開催。当時の報道によると、朝鮮人民軍総参謀部、国土環境保護省、外務省をはじめとする関係機関と専門家が参加し、日本が竹島の領有権主張していることへの対応を協議した。

また、2021年に開催された東京五輪では、韓国が開催に先立ち、同五輪の公式ホームページに竹島が日本の領土として記載されているとして反発したが、北朝鮮も国営メディアが当時、「平和理念への愚弄(ぐろう)であり、わが民族の自主権を蹂躙(じゅうりん)する容認できない挑発だ」とする論評記事を掲載した。北朝鮮オリンピック委員会も当時、報道官談話で「こうした行為は全世界の体育人と人類の平和の念願に対する愚弄であり、わが民族の自主権を蹂躙する、容認できない挑発」と非難。日本側に修正を求めたほか、IOCに対しても「これを黙認・助長した国際オリンピック委員会の責任も問わざるを得ない」と対応を批判した。

同年11月には北朝鮮のウェブサイト「わが民族同士」が、島根県内の飲食店で竹島を模したカレーが提供されていると反発する記事を掲載。「領土強奪と軍国主義の野望が体質化した島国が生み出した野望」などと批判した。

だが、北朝鮮は2022年以降、竹島問題をほとんど取り上げなくなり、労働新聞に竹島関連の記事が掲載されたのも2024年1月が最後だ。

23年12月末、金総書記は朝鮮労働党中央委員会総会で韓国との関係について言及し、「南北関係はもはや同族関係ではなく、敵対的な二つの国家関係、戦争中の二つの交戦国関係に完全に固着した」と述べ、「敵対的2国家論」を打ち出した。

その後、金氏は24年1月の最高人民会議(国会に相当)で、「今日、80年間の北南関係史に終止符を打つ」と宣言。「憲法上の『自主、平和統一、民族大団結』という表現が削除されなければならない」と述べ、韓国について「第1の敵対国、不変の主敵」と憲法に明記する必要性を強調した。

今年3月の最高人民会議では憲法改正が議題になった。そのため、韓国を「敵対国」と規定した対韓対策に沿う形で憲法の条文が修正されるのではないかとみられていたが、この部分の取り扱いがどうだったのかは当時、明らかにならなかった。

だが先月6日、韓国統一部(部は省に相当)はメディア向けの懇談会で北朝鮮の新憲法を公開した。改正された憲法では、旧憲法(23年9月改正)の序文や本文にあった「祖国統一」など、南北統一の概念が全て削除されていた。また、領土条項(2条)では、「領域は北に中華人民共和国とロシア連邦、南に大韓民国と接している領土」などと規定した。

北朝鮮が憲法改正で朝鮮半島北側を領土とする条項を新設した中、共同通信が今月1日に報じたところによると、北朝鮮の出版社が昨年10月に刊行した地図には、半島南側に加え、竹島も除外されていたという。過去の地図には竹島を「独島」として「北朝鮮の領土」だと記す表記があった。共同は、北朝鮮が憲法を改正して半島北側だけを領土と規定したことで南側の竹島は対象外になったとの見方を示す、北朝鮮問題に詳しい専門家の見解を伝えた。

前述のように、北朝鮮は2018年の平昌五輪の開会式で南北の選手団が合同で入場した際、竹島なしの統一旗で入場することになったことに、韓国に対し、領有権を保護する上での原則的な立場が欠けていると非難したが、昨年10月に刊行の地図からは、北朝鮮が領有権主張を事実上、放棄したと解釈できる。南北関係が悪化する中で、島の領有権主張は足並みをそろえることができる数少ない共通認識の一つだったが、この認識も今後共有し、日本に批判を向けることも難しくなりそうだ。
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