<W解説> 安保理の北朝鮮制裁パネル延長否決で高まる懸念=日米韓は打開策を見出せるか?
<W解説> 安保理の北朝鮮制裁パネル延長否決で高まる懸念=日米韓は打開策を見出せるか?
国連の安全保障理事会で先月28日、北朝鮮への制裁決議の履行状況を調べる専門家パネルの任期延長が否決された。ロシアが拒否権を行使したためだ。専門家パネルの任期は今月30日までで、このまま活動が打ち切られれば、国連の北朝鮮に対する監視が弱まることは必至で、国際社会の懸念が高まっている。

専門家パネルは、安保理の下部組織「北朝鮮制裁委員会」の機能強化のため、2009年に採択された安保理決議に基づき設置された。金融や安全保障など各分野の専門家8人からなるパネル委員で構成し、制裁決議違反などを調べた報告書を年2回まとめている。報告書の勧告に基づき、安保理や各国が違反した個人・団体に新たな制裁を科すことがある。国連加盟国などからさまざまな情報を集めて調査や分析を行っているため、その信頼性は高く評価されている。

先月に公表した報告書では、北朝鮮が違法なサイバー攻撃で外貨を獲得していると指摘。外貨収入の約50%をサイバー攻撃によって得ていると報告した。専門家パネルは、北朝鮮が関与したとみられる暗号資産(仮想通貨)関連企業に対する58件のサイバー攻撃を調査。被害額は2017年から昨年までの間に計約30億ドル(約4500億円)に上ることが明らかになった。

専門家パネルの委員の任期は1年で、安保理は毎年3月ごろに新たな決議を採択する形で更新してきた。安保理は先月28日、任期1年延長の決議案の採決を行った。全15理事国のうち、日本や米国、韓国など13か国は賛成したが、中国が棄権、ロシアが拒否権を行使して否決された。委員の任期延長が認められなかったのは初めて。安保理決議は、5か国の常任理事国(米国、英国、フランス、中国、ロシア)のうち1国でも拒否権を行使すれば成立しない。

採決にあたり、ロシアのネベンジャ国連大使は「西側諸国による北朝鮮を締め上げる政策だ」と述べ、制裁自体の緩和を主張した。韓国紙の朝鮮日報が、国連の韓国代表部への取材を基に伝えたところによると、ロシアは採決に先立ち、安保理に対し「決議案に明記された北朝鮮制裁へのサンセット条項(有効期限をあらかじめ定めておく条項)追加」を賛成の条件にしていたという。同紙は「事実上、北朝鮮の立場を代弁したものだ。『ほかの安保理決議のほとんどにサンセット条項があるのに、なぜ北朝鮮関連にはないのか』とロシアは主張したのだ」と解説した。また、読売新聞は「パネルはウクライナ侵略を巡るロシアと北朝鮮の武器取引を調査しており、ロシアはこれに反発した可能性もある」と伝えた。

各国からは、拒否権を行使したロシアを非難する意見が相次いでいる。韓国のファン・ジュングク国連大使は「専門家パネルが常任理事国であるロシアの人質となり、ロシアは国際社会とその安全保障の維持という安保理の責務ではなく、盲目的な利己主義を前面に出し、安保理で最も活動的で重要な機会を失わせた」と批判した。日本の山崎和之国連大使は「ロシア自身が北朝鮮から軍事装備を調達してウクライナで使用し、安保理決議に違反しており、無責任で恥ずべきことだ」と非難した。米ホワイトハウスのカービー大統領補佐官は「彼ら(ロシア)の無謀な行動は、北朝鮮の核実験と弾道ミサイルの発射に対して科している重要な制裁をさらに弱めるものだ」と批判した。

任期切れとなる今月末までに新たな決議が採択されなければ専門家パネルは廃止となる。産経新聞は3日付の社説で「国連の監視が弱まり、北朝鮮の制裁逃れが増えることで核・ミサイル開発の資金が得やすくなる事態が懸念される」と指摘。「日本や米韓は欧州の同志国と協力し、新たな枠組みによる監視網を築く必要がある」と主張した。

JNN(ジャパン・ニュース・ネットワーク)が4日、伝えたところによると、専門家パネルの任期延長案の否決を受け、米国のトーマスグリーンフィールド国連大使が、今月中旬に対応を協議するため韓国と日本を訪問する方向で調整しているという。JNNは「国連大使の日韓訪問によって打開策を見出せるのか、注目される」と伝えた。

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