<W解説>韓国・李政権の下で進む南北融和政策=対北宣伝放送用のスピーカー撤去
<W解説>韓国・李政権の下で進む南北融和政策=対北宣伝放送用のスピーカー撤去
韓国の国防部(部は省に相当)は、南北軍事境界線付近に設置している北朝鮮向け宣伝放送のスピーカーの撤去を始めたと明らかにした。イ・ジェミョン(李在明)政権による、対北緊張緩和政策の一環。李政権は今年6月11日に、このスピーカーを使った宣伝放送を既に中止している。北朝鮮もその後、韓国向けの「騒音放送」を停止した。今回のスピーカー撤去は、放送中止からさらに一歩踏み込んだ形で、国防部は「南北の緊張緩和に役立つ実質的な措置」としている。

韓国軍は昨年6月、北朝鮮が韓国に向けて汚物などをぶら下げた風船を飛ばしていることへの対抗措置として、6年ぶりに南北軍事境界線付近で拡声器による宣伝放送を再開した。韓国軍による北朝鮮向けの宣伝放送は1962年に始まり、その後、南北関係の改善や悪化に伴って中断、再開を繰り返してきた。放送は大スピーカーを使って行い、内容は、韓国の民主主義制度が北朝鮮の政治制度よりも優れていることへのアピールや、北朝鮮の体制批判、韓国や海外のニュース、韓国の歌などだ。放送は北朝鮮軍の兵士に与える心理的影響が大きいとされる。

これに先立ち、当時のユン・ソギョル(尹錫悦)政権は南北軍事合意の効力を全面的に停止した。「9.19南北軍事合意」と呼ばれるこの合意は、2018年9月、当時のムン・ジェイン(文在寅)大統領と北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)総書記が署名した「平壌共同宣言」の付属合意書だ。南北軍事境界線付近での宣伝放送は同合意の効力停止を受けたもので、昨年6月の放送再開初日には愛国歌(韓国の国歌)を流し、「北朝鮮の同胞の皆さん、アンニョンハセヨ(こんにちは)」とのアナウンサーの呼びかけから放送を開始した。韓国のサムスン電子のスマートフォンが世界38カ国で1位の出荷台数を記録していることや、北朝鮮市場でのインフレの傾向などを伝えたほか、放送の途中では韓国の人気グループ「BTS」のヒット曲「Dynamite」などのK-POPも流した。

一方、北朝鮮は、2023年末から南北関係を「敵対的な二つの国家」と位置付け、昨年10月には韓国を「敵対国」と定義する憲法改正を行った。これに沿った措置として、韓国につながる道路と鉄道を爆破。国営、朝鮮中央通信は当時「北朝鮮憲法の規定に基づき取られた、避けられない正当な措置だ」とした。また、韓国からの宣伝放送に対抗する形で、韓国向けの「騒音放送」を続けてきた。

南北関係は緊張が続いているが、今年6月に韓国大統領に就任したイ・ジェミョン(李在明)氏は就任前の5月、前述の南北軍事合意を回復させるべきとの考えを示した。同月には、2000年に開かれた南北首脳会談を記念する式典に祝辞を寄せ、「(北朝鮮との)消耗的な敵対行為を中止し、対話と協力を再開する」と表明。「平和、共存、繁栄する朝鮮半島のため、あらゆる努力を傾ける」と関係改善に改めて意欲を示した。

李氏の指示により、韓国軍は6月、これまで実施してきた前述の宣伝放送を中止した。北朝鮮との緊張緩和を目指す李政権の対策の一環で、北朝鮮側の反応が注目された。放送中止後、北朝鮮は韓国向けの「騒音放送」を中止した。

李政権が北朝鮮との早期の対話再開を模索する中、北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)総書記の妹、キム・ヨジョン(金与正)氏は先月、談話を発表。「韓国が、いくつかの感傷的な言葉で自らの行為の結果全てを帳消しにできると期待しているのなら、これほど大きな誤算はない」とした上で、「ソウルでどのような政策が採用され、そのような提案がなされようとも、我々はそれに関心がなく、韓国との対話を模索する理由も、議論すべき問題も存在しないという公式の立場を改めて明確にする」と強調し、韓国との対話を拒否する姿勢を示した。

こうした中、韓国国防部は4日、6月に中断した放送で使用していた固定式のスピーカー約20個の撤去を開始。作業は6日までに完了した。李政権としてはこうした南北の緊張緩和の措置から、北朝鮮との対話再開につなげたい考えだが、与正氏は前述の談話で、韓国側の放送中止措置について「やるべきではなかったことを元に戻したに過ぎない。評価されるようなことにはならない」と切り捨てており、対話再開は容易でないことがうかがえる。
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