韓国では、昨年12月に、ユン・ソギョル(尹錫悦)大統領が「非常戒厳」を宣言して以降、政治の混乱が続いている。非常戒厳は韓国憲法が定める戒厳令の一種。戦時や事変などの非常事態で、軍事上、必要となる場合や公共の秩序を維持するために大統領が発令するものだ。非常戒厳は早期に解かれたものの、韓国社会に混乱をきたし、国内政治は不安定となった。「共に民主党」など野党は、尹氏が「憲法秩序の中断を図り、永続的な権力の奪取を企てる内乱未遂を犯した」などとして憲法違反を指摘し、尹氏の弾劾訴追案を国会に提出した。昨年12月、採決が行われ、賛成204票、反対85票で同案は可決した。これを受け、尹氏は職務停止となった。
尹氏が職務停止となったのに伴い、大統領の権限はハン・ドクス首相が代行することになった。しかし、その後ハン氏も、非常戒厳の宣布を「幇助(ほうじょ)した」などとして弾劾訴追され、「代行の代行」にチェ・サンモク経済副首相兼企画財政相が就任した。だが、憲法裁判所は3月、ハン氏の弾劾訴追を棄却。ハン氏は大統領代行に復帰した。
一方、憲法裁は先月4日、判事8人全員一致により、尹氏の罷免を認める決定を言い渡した。ハン氏は当時、国民向けの談話を発表し「憲政史上2人目の現職大統領の弾劾という不幸な状況が発生したことを重く受け止める」とした上で、「大統領権限代行として国家の安保と外交に空白が生じないよう、堅固な安保体制を維持する」と強調した。また、政界と国会に対し、「大韓民国の未来のために力と知恵を集めてほしい」と呼び掛けた。
尹氏が罷免されたことに伴い、6月3日に大統領選が行われることになった。今月2日、ハン氏は出馬を表明。同日開いた記者会見で「国と国民のための未来ではなく、個人と陣営の利益を追及する政争が危険水域に達した」とし、「われわれが苦労して興した国が無責任な政争で足元から崩れるのを放置してはならない」と訴えた。また、前日には首相辞任を表明し、国民に向けた演説で「われわれが直面している危機を克服するために私ができること、やらなければならないことをしようと、職を辞することを決めた」と説明した。
ハン氏の首相辞任に伴い、チェ・サンモク経済副首相兼企画財政相が大統領職の「代行の代行」を務める予定だったが、チェ氏は、自身に対する弾劾決議案が国会本会議に提出されたことを受け、1日夜、辞意を表明。「国内外の経済条件が厳しい状況で職務を遂行できなくなった。国民に申し訳なく思う」と述べた。「代行の代行」就任まで2時間を切った中での衝撃的な辞任だった。
チェ氏の辞任に伴い、大統領の職務の「代行の代行の代行」として、イ・ジュホ社会副首相兼教育相が就任した。イ氏は来月3日の大統領選挙で当選者が確定するまで、国政運営を担う。イ氏は南東部・テグ(大邱)市出身の64歳。国会議員などを歴任後、イ・ミョンバク(李明博)政権で教育科学技術相(後の教育相)を務めた。尹政権下の2022年11月に社会副首相兼教育相に就任した。イ氏は2日、記者団に対し、「重責を担うことになった」とした上で、大統領選を控えていることから「公正な選挙管理に重点を置く」と述べた。また、大統領の「代行の代行の代行」が国政運営を担う異例の事態となったことについては、「安定的に国政が運営されるよう、最善を尽くしていく」と述べた。
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