慰安婦問題を象徴する少女像をめぐっては、元慰安婦らを支援する韓国の市民団体「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯」(正義連)が2011年12月にソウルの日本大使館前に設置して以降、世界各国に広がった。韓国国会の女性家族委員会が2024年にまとめたところによると、同様の像は韓国に154カ所、国外には米国やカナダ、ドイツなど31カ所設置されている。
ミッテ区が撤去を命じている像は韓国系市民団体の「コリア協議会」によって2020年9月に設置された。協議会がこの像を設置する以前にドイツ国内には既に2体あったが、いずれも設置場所は私有地だった。しかし、撤去命令が出ているこの像は初めて公共の場所に設置されたことから波紋を広げることとなった。そのため、2020年10月、ミッテ区はこの像の撤去命令を出したが、協議会側は反発。その後、結局、区は撤去命令を撤回し、期限を設けて期間中の設置を容認した。昨年、その期限が経過したとして、区は改めて撤去を要求。しかし、協議会が命令差し止めを求める仮処分を申し立て、ことし4月、行政裁判所は9月28日までの設置維持を許可した。区は協議会に対し、私有地への移設を提案したが拒否。区は改めて撤去命令を出し、今月7日までに応じない場合は、制裁金を科すと警告した。
一方、日本政府はドイツに対し、像の撤去を繰り返し要請してきた。慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的解決」を確認した2015年の日韓合意では、国際社会での非難や批判は控えると約束しており、慰安婦問題を象徴する像の第三国での設置はこうした立場とも相いれないものだ。2022年4月に行われた日独首脳会談では、岸田文雄首相がドイツのショルツ首相(いずれも当時)に撤去に向けた協力を依頼した。首相自らが要請したことは極めて異例のことだった。このまま像の設置を欧州の主要国であるドイツで許せば、誤った歴史が国際社会に根付くことになりかねないという日本政府の危機感が背景にあったものとみられている。しかし、像の管轄はミッテ区で、ドイツ政府として介入できる余地は少ないことから、ショルツ氏が当時示した反応は薄かったとされる。だが、昨年5月、ベルリン市長は当時の上川陽子外相と会談した際、「変化を起こすのが重要だ」と述べ、解決を図る方針を示した。これに、協議会は撤去に向けた動きだとして「日本政府の圧力に屈した」と反発した。
慰安婦を象徴するこうした像は韓国系の市民団体により、ドイツのみならず、米国やイタリアなど各国に次々と設置されてきた。韓国外で初めて設置されたのは2013年7月の米西部カリフォルニア州グレンデール市。産経新聞の報道によると、設置の動きは2010年代に米国で活発化し、20年代にはドイツなど欧州に移行したという。
一方、ミッテ区に設置の像について、協議会側は「性的な暴力の象徴であるこの像が、公の場所から撤去されるのを防ぐのが使命だ。(区の提案は)一時的な対策に過ぎず、移転は望まない」と主張。先月26日には、存続を求めて行政裁判所に仮処分を申し立てた。裁判所に提出した申請書では、像の撤去義務の差し止めと、期限後も設置を容認するよう求めた。区に対しても撤去命令に対する異議申し立てをした。
行政裁判所は今月14日、「市民団体(協議会)には公有地使用の権利がない」として協議会の訴えを棄却。撤去命令を支持した。裁判所は強制的な手段による撤去が望ましいとの見解も示し、像の撤去に向け動き出すかと注目されたが。協議会は上級行政裁判所に上訴した。
今後、上級行政裁判所で審議が続くことになり、区や日本政府が求めてきた像の早期撤去の実現はなおも困難な状況となった。区が最初に撤去命令を出してから、既に5年が経過している。
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