<W解説>今月中の日韓首脳会談は見送られる見通しも、韓国・大統領室高官の発言から感じ取れる穏やかな両国関係
<W解説>今月中の日韓首脳会談は見送られる見通しも、韓国・大統領室高官の発言から感じ取れる穏やかな両国関係
韓国大統領室の高官は今月1日、3月中の日韓首脳会談の開催について「計画はない」と否定した。一部日本メディアは先月、岸田文雄首相が今月20日に訪韓し、ユン・ソギョル(尹錫悦)大統領と会談する方向で検討していると報じていた。しかし、韓国メディアは当初から可能性は低いとの見方を伝えており、先月14日の聯合ニュースは「現段階では首脳会談の実現に向けて両国政府が可能性を打診している状況ではなく、日本内部からのアイデアの一つという見方が強い」と報じていた。

日韓両首脳は昨年、首脳同士の相互訪問「シャトル外交」の再開で合意。尹大統領が昨年3月に日本を訪問したのに続き、5月には岸田首相が訪韓した。首脳会談はその後も回数を重ね、昨年1年間に7回にも上った。

日韓シャトル外交とは、日本の首相と韓国の大統領が相互訪問し、両国間の課題を話し合おうというもの。当初はリゾート地のようなところで気軽に行うことを目的とし、2004年7月、韓国の済州島で当時の小泉純一郎首相とノ・ムヒョン(盧武鉉)大統領との間で実施された。両首脳はその後、2004年12月に鹿児島県指宿市、2005年6月にソウル市で会談を重ねたが、小泉氏の靖国神社参拝が韓国で反発が強まり、日韓関係の悪化を受けて一旦廃止された。その後、2008年にイ・ミョンバク(李明博)大統領と福田康夫首相の間で復活するも、2011年12月に京都で行われた李氏と野田佳彦首相との間で行われた会談で慰安婦問題をめぐる応酬となり、以後断絶した。パク・クネ(朴槿恵)大統領は訪日せず、続いて就任したムン・ジェイン(文在寅)大統領は安倍晋三首相と再開で合意したが、本格的な実現には至らなかった。

日韓関係は悪化の一途をたどり、「シャトル外交」が中断していたが、日韓関係改善を掲げた尹政権の誕生で潮目が変わった。

両国の関係が回復するきっかけとなったのは、韓国政府が元徴用工訴訟問題の解決策を発表したことだ。元徴用工訴訟をめぐっては、韓国の大法院(最高裁)が2018年、雇用主だった三菱重工業と日本製鉄(旧新日鉄住金)に賠償を命じた。しかし、日本は戦時中の賠償問題に関しては1965年の日韓請求権協定で解決済みとの立場で、これを理由に被告の2社は履行を拒んだ。このため、原告側は、日本企業が韓国内に持つ資産を売却して賠償に充てる「現金化」の手続きを進めた。

元徴用工訴訟問題は日韓最大の懸案として、長年、解決の糸口が見えぬまま月日だけが過ぎることとなったが、韓国政府は昨年3月6日、この問題の「解決策」を発表。その内容は、元徴用工を支援する韓国政府傘下の「日帝強制動員被害者支援財団」が、元徴用工らへの賠償を命じられた被告の日本製鉄や三菱重工業に代わって遅延利子を含む賠償金相当額を原告らに支給するというものだった。発表の際、尹大統領は解決策について「これまで政府が被害者の立場を尊重しながら、韓日両国の共同利益と未来発展に符合する方法を模索した結果だ」と強調した。

これまで、2018年に大法院で勝訴が確定した原告15人のうち、解決策を受け入れた11人に賠償金相当額が支払われた。受け入れを拒否している残り4人については、賠償金相当額を裁判所へ供託する手続きが進んでいる。一方、元徴用工訴訟はまだ係争中の訴訟が多くある。韓国政府は、同様の訴訟で新たに勝訴が確定した原告には同じように支払いに応じる方針だが、財源が足りなくなる可能性が指摘されている。

こうした課題は残っているものの、韓国政府が解決策を示して以降、両国の関係は劇的に改善し、現在は政界のみならず、経済、そして民間同士の交流が活発に行われている。

今月20日に行われる可能性も報じられていた日韓首脳会談は見送りとなったが、韓国大統領室高官の言葉からは穏やかな雰囲気が伝わってくる。聯合ニュースによると、高官は、今月中に会談が行われる可能性について、記者団に「推進されていない。計画もない」と話した。その上で「政治的条件にとらわれず、いつでも互いに都合のいい時期に韓日首脳が行き来するのがシャトル外交の精神だ」と述べたという。一方、日本政府が岸田首相の訪韓を見送る方針を固めたと伝えた読売新聞はその理由について「韓国側と日程調整が調わなかった」と報じている。裏を返せば、今や日韓首脳は、日程さえ調えば気軽に会える状況になったということだ。

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