<W解説>韓国の新首相に就任したキム・ミンソク(金民錫)氏とは?
<W解説>韓国の新首相に就任したキム・ミンソク(金民錫)氏とは?
韓国の新首相に、キム・ミンソク(金民錫)氏(61)が就任した。今月3日の国会で、金氏の任命同意案が賛成多数で可決した。金氏は「暴政勢力が作った経済危機の克服が第1の課題だ。大統領の参謀としてすぐに考え、先に責任を取る首相になる」と前政権の批判を交えながら抱負を語った。

韓国は先月3日の大統領選で、革新系「共に民主党」のイ・ジェミョン(李在明)氏が当選を果たした。李氏は就任初日の同月4日、首相候補に、側近の金氏を指名した。

韓国で、首相は大統領に次ぐ政権ナンバー2で、李氏が首相候補に指名した金氏はソウル市出身。ソウル大学在学中には全国学生総連合の議長を務めるなど、学生運動に身を投じた。民主化運動を率いた人物で、投獄経験もある。キム・デジュン(金大中)元大統領の側近としてキャリアを積んだ。25年ほど前には、米ニューズウィーク誌で「21世紀のリーダー100人」に選ばれ、将来の大統領候補とも言われた。李氏が立候補した前回2022年と今回6月3日に行われた大統領選挙では、李氏の選対幹部を務めた。李氏は自身の側近である金氏について「国政全般に洞察力がある」としている。河野太郎元外相や首相補佐官の長島昭久氏ら日本の政治家と長年交流がある。先月17日に、ソウル市内で海外メディア向けに記者会見した際には、「20~30年の交流がある友人」としてこの2氏の名前を挙げた。この記者会見で、金氏は日韓関係について「多くの曲折があったが、一貫して良好な関係を維持してきた」とし、両国間の対話を重視する姿勢を示した。一方、金氏は過去に日本に対し、厳しい発言をしたこともある。ムン・ジェイン(文在寅)政権では、日本による半導体素材の輸出規制措置に対抗して韓国政府が設置した「日本経済侵略対策特別委員会」の副委員長を務めた。金氏は当時、「安倍(晋三)政権が経済戦争を中断し、歴史問題について謝罪しなければ東京五輪をボイコットすることになるだろう」と主張した。

首相の就任には、国会で承認される必要があるが、最大野党「国民の力」は、金氏について、財産形成の過程をめぐる疑惑や、金氏の子どもが大学入学で特別待遇を受けたとする疑惑などを指摘した。また、市民団体「庶民民生対策委員会」は、金氏の配偶者が2023年にソウル市内に構えた製菓店が、同店と同じ地域にある教会から特恵を受けていたなどと指摘。同委員会は金氏を職権乱用及び請託禁止法違反、政治資金法違反などの疑いでソウル警察庁に告発した。一方、金氏は自身をめぐる複数の疑惑について真っ向から反論。先月16日、SNSに「(疑惑について)毎日一つずつ公に説明し、国民の皆様の判断を求めていく」と投稿した。

先月24、25の両日には、国会で金氏に対する人事聴聞会が開かれ、金氏をめぐる疑惑に関して、与野党が激しい攻防を繰り広げた。同党は財産形成の過程などに関して、資料の提出を要求。これに対し、与党「共に民主党」は根拠のない疑惑の提起が金氏の能力と資質の検証を妨げていると反論した。結局、金氏は「国民の力」が要求した資料を提出せず、これに反発した「国民の力」は、人事聴聞会2日目の午後から出席を拒否。聴聞会は決裂した。

与野党で人事聴聞経過報告書の採択に合意できず、国会本会議での採決を通じて承認手続きを完了させることになった。首相任命同意案は、国会の在籍議員の過半数が出席し、過半数が賛成すれば可決する。国会は与党「共に民主党」の議席が過半数を大きく上回っている。同案は今月3日、国会本会議で採決され、出席議員179人のうち、賛成173票、反対3票、無効3票で、同案は可決。金氏は李政権の初代首相に就任することが決まった。「国民の力」は金氏が首相に不適格だとして採決に参加しなかった。

金氏は採決後、記者団に対し、「国民の意思を天のごとく受け、大統領の方針を現場で展開し、与野党を越えて議員の知恵を国政に反映させる」と述べた。

金氏は4日、初の業務として、大統領室前で抗議集会を開いた農業団体の関係者と対話した。団体は、米の超過生産分の政府買い上げを義務付ける「糧穀管理法」改正案を含む「農業4法」にかつて反対したソン・ミリョン(宋美玲)農林畜産食品部長官が、前政権に引き続き、新政権でも留任の見通しであることに反対している。宋氏はかつて「糧穀管理法」について「農業の未来を壊す法律」などと発言した。金氏は宋氏の留任の方針について、「新政権においても、前政権の長官を一人くらい留任させるのは、国民統合の流れからも意味があると考えた」と説明した。

金氏の初の公務について伝えた韓国紙の東亜日報は、「李在明政権の発足に伴い、現在検討中の政府組織改編によって、首相室の傘下に予算や捜査権の調整権限などが付与される可能性もあり、首相の権限はかつてなく強まる見通しだ」と伝えた。
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