最近、ロシアとの関係を強めてきた北朝鮮は、中国との関係では冷え込みが指摘されていた。しかし、先月には、金総書記が訪中し、抗日戦争勝利80年の記念式典に出席。その際、北朝鮮メディアはこれを大々的に報じた。朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」は、金氏が中国の習近平氏と握手を交わす場面の写真など、1面から3面にかけて37枚の写真を掲載。軍事パレードでは金氏が「対日戦争に参加した老兵たちを温かく祝った」などと伝えた。金氏は習氏と6年ぶりに会談し、関係を強化することで一致した。会談で習氏が「中国と北朝鮮は運命を共にし、助け合う友人だ」とした上で、米国を念頭に「戦略的協力を強化し、共通の利益を守らなくてはならない」と述べると、金氏は「国際情勢がどう変わろうとも両国の友好は変わらない。関係を深め、発展させることが願いだ」と応じた。
金氏の訪中には、今回、初めて単独で中国を訪れた崔氏も同行した。崔氏は61歳。金総書記に近く、米国との交渉に通じた人物として知られる。オーストラリアやマルタ、中国などに留学した後、1980年代半ばに北朝鮮外務省に入り、2009年8月にクリントン元米大統領が北朝鮮の首都ピョンヤン(平壌)を訪問した際には通訳を担当して表舞台に立った。その後、長く、米朝協議や6者協議の通訳を務めたが、北朝鮮代表の言葉を勝手に意訳したこともあり、「謎の通訳」「マダム・チェ」とも呼ばれた。2010年10月に外務省米州局副局長に、2016年には北米局長に就任した。18年には外務次官に昇進し、米朝協議に携わり、そして、22年に外相に就任した。北朝鮮で初の女性外相の誕生だった。
先月27日に北京入りした崔氏は、翌28日、中国の王毅外相と会談した。会談で王氏は、先月行われた習氏と金氏との中朝首脳会談に触れ、「重要な共通認識に達し、中朝関係発展の方向を示し、青写真を描いた」と述べた。その上で、現在の国際情勢について「変動と混乱が交錯し、強権を振り回す行為が深刻な害を及ぼしている」と懸念を示した。さらに王氏は「北朝鮮との連携を強め、あらゆる形の覇権主義に対抗し、両国共通の利益や国際社会の正義、平等を守っていく意思がある」とし、連携強化を呼び掛けた。
これに対し、崔氏は「両国の最高指導者の合意を履行し、さらに高い水準の協力関係へと発展させていきたい」とした上で、「一方主義や強権政治を阻止し、公正な世界秩序の構築を推進する」と応じた。
中国の国営、新華社通信によると、会談では先月の中朝首脳会談で合意した戦略的意思疎通の重要性を両者が確認したという。
また、韓国の公共放送KBSは「双方は米国を名指しすることは避けたが、『覇権主義と一方主義への反対』という発言は、事実上、米国を意識したものと受け止められている」と伝えた。その上で、KBSは「中国と北朝鮮が足並みをそろえて米国をけん制する姿勢を鮮明にした一方で、ギクシャクしていた両国関係が先の首脳会談をきっかけに完全に修復したことを改めてアピールする形となった」と指摘した。
崔氏は29日には李強首相と会談した。李氏が「連携をさらに深め、両国共通の利益を守りたい」と述べると、崔氏は「対中関係の発展は、(北朝鮮の)揺るぎない方針だ」と応じた。中国外務省によると、両外相は中朝の意思疎通と実務協力の強化で一致したという。
今回、2018年12月以来となった北朝鮮の外相による単独訪中。30日までの滞在中、崔氏が中国側の要人と相次いで会談したのは、冷え込みが指摘されていた中朝関係の修復をアピールする狙いがあったものとみられる。北朝鮮では今月、朝鮮労働党創建80年に合わせて大規模な軍事パレードが行われる見通しで、中朝関係の改善に向けた動きが見られる中、中国の習国家主席がパレードに合わせ訪朝するのか注目される。
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