<W解説>韓国文化の一大転換、「犬の食用禁止法」可決=愛犬ブームも制定を後押し
<W解説>韓国文化の一大転換、「犬の食用禁止法」可決=愛犬ブームも制定を後押し
韓国の国会は9日、食用を目的とした犬の飼育や販売などを禁じる法案を本会議で可決した。反対票はなかった。現在、韓国の国会の議席は野党が過半数を占めているため、これまで与党は国会運営に苦慮してきているが、同法案では与野党が成立を事実上党の方針として定め推進してきた。韓国に根付いてきた「犬食文化」は今後消滅することになり、韓国の代表的文化が大転換を迎えたわけだが、これほどの転換に与野党が一致した意思を示した背景には何があるのか。

9日に韓国国会本会議で可決したのは「犬の食用目的の飼育・食肉処理及び流通などの終息に関する特別法」。食用を目的に犬を飼育・繁殖したり食肉処理する行為、犬や犬を原料として料理・加工した食品を流通・販売する行為を禁止する内容を骨子とする。食用を目的に犬を殺した場合、3年以下の懲役または3000万ウォン(約328万円)以下の罰金、食用目的に飼育や繁殖を行った場合、2年以下の懲役または2000万ウォン以下の罰金に処せられる。

犬食文化が残る韓国では、滋養食として犬肉を煮込んだ「ポシンタン(補身湯)」が有名だ。韓国では、日本の「土用の丑の日」にあたる「ポンナル(伏日)」が7~8月にかけて計3日あり、補身湯や「サムゲタン(参鶏湯、鶏肉を使った滋養食)」を食べる習慣がある。

しかし、最近は若者を中心に犬食を敬遠する人も多く、この文化は薄れつつあった。「犬食用問題の議論のための委員会」が2022年、全国の18歳以上の男女1514人を対象に行った意識調査では、「犬食文化を継承すべき」との回答は28.4%にとどまった。一方、「犬の食肉処理の合法化に反対」との回答は52.7%に上った。

2021年9月、愛犬家として知られ、在任中、大統領府の公邸でも犬を飼っていた当時のムン・ジェイン(文在寅)大統領が「犬の食用禁止を慎重に検討する時期」との考えを示した。このことがきっかけで、犬肉を食用とすることをめぐる議論が活発化した。

政権が変わり、文氏と同じく愛犬家として知られるユン・ソギョル(尹錫悦)大統領は、大統領選候補の時から犬の食用自体には反対の立場を示していた。昨年11月には、尹大統領夫人のキム・ゴンヒ(金建希)氏も訪問先の英国でこの問題に言及し、カミラ王妃に対し「韓国では犬の食用禁止立法の成立のために努力している」と述べた。また、先月には、出席したオランダ・アムステルダムの動物保護団体との懇談会で「犬の食用禁止は大統領の約束」と話していた。

一方、韓国は今、愛犬ブームとなっている。一昨年時点で韓国で買われている犬は544万匹あまりで、前年より26万匹増加した。犬を家族のように大切に扱う風潮が広がり、愛犬ホテル、愛犬カフェ、愛犬美容院のほか、愛犬と一緒に旅を楽しむツアーなども人気だ。ペットとエコノミーを掛け合わせた造語「ペッコノミー」という言葉も定着しつつあり、2015年に1兆8994億ウォン(約2096億5700万円)だったペット関連産業の市場規模は、2027年には6兆ウォンを超えるまでに成長するとみられている。

愛犬ブームも、今回の犬肉禁止法可決を後押ししたといえる。与党「国民の力」と政府は昨年11月の与党・政府協議を通じて、特別法の制定を推進。最大野党「共に民主党」も同月、議員総会でこの法案の処理を党論として採択した。9日の国会本会議で法案の採決が行われ可決した。出席議員210人中、208人が賛成、2人が棄権、反対者はいなかった。

一方、犬食文化が長く韓国で根付いてきただけに、今回、犬肉禁止法が可決したことに伴い、廃業・転業を余儀なくされる関連業者も多数存在する。このため、飼育・食肉処理・流通などの禁止と違反時の罰則は猶予期間を設け、公布から3年後に施行する。また、影響を受ける業者が安定した経済活動を維持できるよう、国や地方自治体が支援を行っていく。

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