<W解説>北朝鮮の駆逐艦の事故に金総書記は激怒=責任問われ拘束された4人は今後どうなる?
<W解説>北朝鮮の駆逐艦の事故に金総書記は激怒=責任問われ拘束された4人は今後どうなる?
北朝鮮が建造した5000トン級の駆逐艦が進水に失敗した今月21日の事故をめぐり、当局は26日までに、4人を拘束した。北朝鮮の朝鮮中央通信は同日、4人目の拘束者となった朝鮮労働党軍需工業部の副部長について「重大事故の発生に多大な責任がある」と報じている。事故は進水式に出席していたキム・ジョンウン(金正恩)総書記の目の前で起きた。海軍力強化をアピールする目論見は外れ、メンツを潰された形の金氏は激怒。来月開かれる予定の朝鮮労働党の重要会議で、関係者の処遇を検討する考えを示している。拘束された4人は今後、どうなるのだろうか。

事故は北朝鮮東部のチョンジン(清津)の造船所で起きた。21日、進水式で披露されることになっていた駆逐艦が移動中に台車のバランスが崩れ、船尾部分が先に海へ滑り出し、横転した。この日、駆逐艦の進水には、船体を側面から海に滑らせる「側面進水」方式が採用されたが、この方式は、船首や船尾を海に向けて滑らせる「正面進水」や、船を建造する場所に水をくみ上げたり、自流させたりして船を自然に浮かせる「浮体進水」に比べ、高度な設備などが必要になるという。

事故原因などについては、専門家らでつくる調査グループが調べを進めている。同グループは23日、朝鮮中央通信を通じて「船体右舷が傷つき、船尾部分の構造通路に一定量の海水が流入したことが確認された」と発表。損傷の程度は「深刻なものではない」としている。

英国に拠点を置く、非営利の調査機関「オープン・ソース・センター」はこのほど、清津の造船所で22日に撮影された衛星画像を公開。画像からは、駆逐艦の船体の一部が岸壁に引っかかった状態で横倒しになり、水に浸かっている様子が確認できる。船体は大量のブルーシートで覆われていた。また、米国のシンクタンクの戦略国際問題研究所も同様の衛星写真を公開した。同研究所は、事故を起こした駆逐艦を製造した清津の造船所が主に手掛けているのは貨物船や漁船だと指摘。大型艦の製造や進水に関する専門技術には乏しかったと推測した。

事故は進水式に出席していた金総書記の目の前で起こった。国威を示そうとしていた大型艦が水中に横転する事故が起こり、メンツをつぶされた形の金氏は、「不注意と無責任さ、非科学的な経験主義によって起こった。到底あってはならず、容認もできない深刻な重大事故であり、犯罪的行為」と激怒。6か月以内の船体の復元も指示したという。また、金氏がトップを務める朝鮮労働党の中央軍事委員会は「責任者の罪は絶対にうやむやにできない」とした。

朝鮮中央通信は25日、清津造船所のカン・ジョンチョル主任技師、船体建造作業所のハン・ギョンハク責任者、キム・ヨンハク行政担当副部長の3人が拘束されたと報じた。また、同通信は翌26日、司法機関が新たに朝鮮労働党の軍需工業部のリ・ヒョンソン副部長を拘束したと伝えた。これまでに拘束されたと伝えられているのはこの4人。北朝鮮が実名を挙げて身柄を拘束するのは異例だ。また、これに先立ち、同造船所のホン・ギルホ所長は司法機関に出頭したとされる。

今回、最高指導者の金氏が「犯罪的行為」との表現を使って激怒していることから、拘束者には重い処罰が下る可能性がある。政治犯収容所に送られたり、公開処刑されたりすることもあり得る。北朝鮮では昨年7月、中国との国境に近いピョンアンプクト(平安北道)シニジュ(新義州)などで深刻な豪雨に見舞われたが、金氏は同月末に開かれた朝鮮労働党中央委員会政治局の非常拡大会議で、「党や国が与えた責任のある職務を怠ったことで容認できない人命被害を発生させた者については、厳しく処罰する」と述べた。その後、9月に韓国の放送局のTV朝鮮が、韓国政府当局者の話として伝えたところによると、被災地の幹部20~30人が一斉に銃殺されたという。韓国の国家情報院も、北朝鮮で多数の幹部が洪水被害の責任を問われ処刑されたもようだと明らかにした。

一方、過去には、北朝鮮が軍事偵察衛星の打ち上げに失敗した際、金氏は国家宇宙開発局の幹部らを叱責したものの、実務責任者らは責任を取らされなかったことなど、粛清を免れたケースもある。
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