<W解説>韓国社会に衝撃を与えた、米国での韓国人労働者拘束=ビザ制度の問題、浮き彫りに
<W解説>韓国社会に衝撃を与えた、米国での韓国人労働者拘束=ビザ制度の問題、浮き彫りに
米国にある韓国企業の電池工場で今月4日、韓国人ら475人が不法就労などの疑いで一時拘束されたことに、韓国で衝撃が広がっている。米国は外国からの対米投資を促しながら、ビザ発給を厳しく制限しており、熟練人材の残留を認めずに摘発に乗り出した今回の事態に、韓国企業からは対米投資を萎縮させるものだと懸念の声が上がっている。米紙ワシントンポストは今月9日(現地時間)、「米国に先端工場を建設するために、数百人の熟練した外国人労働者を数週間または数か月間、短期で呼び込むためのビザ制度が(米国に)存在しない」と指摘した。

米移民・税関捜査局(ICE)などは今月4日、米ジョージア州サバンナにある現代自動車グループとLGエナジーソリューションの合弁会社の工場建設現場で、韓国人労働者ら475人を不法就労などの疑いで拘束した。手錠や足かせでつながれる映像とともに報じられ、韓国社会に強い衝撃を与えた。拘束された労働者らは7日間、ICEの収容施設に拘束されるも、11日に釈放され、自主出国の形でLGエナジーソリューションが用意したチャーター機に乗り、12日、韓国に帰国した。インチョン(仁川)国際空港では労働者の家族らが出迎えた。韓国紙の朝鮮日報によると、家族から安堵(あんど)や怒りの声が聞かれたといい、ある労働者の妻は同紙の取材に「このようなことが起きたら、誰が家族の米国行きを許すだろうか。もう二度と行かせられない」と話した。

現代自動車のホセ・ムニョス最高経営責任者(CEO)は11日(現地時間)、今回の事態により、工場建設が少なくとも2~3カ月遅れるとの見方を示し、「空白をどのように埋めるかを模索しなければならない」と述べた。一方、「非常に残念な事件だが、米市場の戦略的重要性に変わりはない」と強調した。

今回の事件の背景は、不法移民の取り締まりやビザの発給を厳格化している米トランプ政権の政策にある。一方で政権は、対米投資を促しており、韓国は、米国の関税措置をめぐる交渉で、3500億ドル(約51兆円)を対米投資に拠出することに合意している。

工場の建設段階では専門の人材が必要となるが、米国にない技術と設備が多いという。特殊な設備を設置する際などには、その設備を販売する企業の社員が一時的に米国に滞在して作業する。多くは韓国や日本、中国の企業が担うという。朝鮮日報は「米政府が海外企業の工場建設現場を取り締まるのは、米国人の雇用を増やせという圧力だ」と解説。「だが問題は、工場建設や初期稼働に必要な水準の技術と専門性を持つ現地の人材を見つけるのが非常に困難だということだ」と指摘した。現地で工場を建設中のある韓国の建設会社の関係者は同紙の取材に「米国人だけを雇用していたら工期を合わせるのは不可能だ。様々な問題を解決するには、韓国人技術者を急いで派遣してもらうしかない。『投資しろ』と言っておきながら、必要不可欠な人材のビザをくれないのだから、一体どうしろというのか」と語った。また、米国に数十兆ウォン(数兆円)もの投資を進めている、ある韓国の大手企業の役員は「米国人の雇用を奪うのではなく、早く工場を建てて現地採用をするためのものなのに、そうした努力の代価が『不法滞在者』扱いだとはむなしい」と語った。

イ・ジェミョン(李在明)大統領は11日、就任100日に合わせて開いた記者会見で今回の事態に言及。「韓国企業は非常に困惑しているだろう。米国への直接投資に大きな影響を及ぼす可能性があり、現在の状態が続けば、企業の立場では投資を躊躇(ちゅうちょ)せざるを得ない」と懸念を示した。その上で、「工場を建設するために技術者を滞在させたくても、ビザの発給はだめだと言われる、投資に関するビザを適切に発給してほしい」と求めた。

また、現代自動車グループのチョン・ウィソン会長は11日(現地時間)、米デトロイトで開かれたイベントで今回の事態について触れ、「本当に心配した」とした上で、米韓両政府が協力し、「より良い(ビザ)制度をつくることを望む」と語った。

韓国のチョ・ヒョン外交部長官(外相)は10日(現地時間)、米国でルビオ国務長官と会談し、韓国の専門人材向けのビザ新設に関して、迅速に協議していくことを確認した。一方、東亜日報によると、米シンクタンク「エコノミック・イノベーション・グループ」のジョン・レティエリ最高経営責任者(CEO)は同紙の取材に「今回の事件は、専門的な外国人労働者の受け入れを可能にするために、移民法を改正する必要性を示している」と指摘した。

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